連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第10回

||| ふらっと舞台を見に来てほしい

-こちらの観客の年齢層は、結構バラけているんしょうか。

森元 下北沢にいらっしゃるお客様に比べると、少しだけ幅広いと思います。「演劇を好きになってくださる人がもっともっと増える」ことが私の最大の目標なので、仮に若手の公演であっても、年配の方に見に来ていただいて「意外と面白いわねえ。他の公演も見てみようかしら」と思っていただけることを心から願っています。
 でも、演出力が弱かったり、脚本のレベルが低いと、やはり年配の方の鑑賞には耐えられなくなってしまう。仮に表現方法は新しくても、脚本がしっかりしていれば、年配の人も充分楽しんでくださるものです。そう、ちょうど『わが星』がそうでした。
 僕の感覚なんですけど、演出力はある時ついてくることがあるんですけど、脚本はセンスの部分が大きなウエートを占めるので、テクニックを磨くだけでは簡単には伸びないですね。いくら「この表現では陳腐でしょう」って言っても、分からない人には分からない。「じゃあ、どういう言葉で書けばいいんですか?」って正解を求めるタイプの人の脱皮は、非常に難しいと思っています。
 例えば、僕の好きなMONOの土田英生さんの『その鉄塔に男たちはいるという』という作品で、3人が喋ってて、仲がいいのかなと思ってたら、次第にAとBがあんまり喋らないなって気付いてきて、やがてBがCに(Aのほうを見ずに)「○○って言っとけ」とか言い出す。うまいんですね。ああ、BはAが嫌いなんだ、ことさらケンカしてるって言わないのに、BとAが反目しあってることがいつの間にか分かる。そういう脚本が好きですね。
 とにかく私は説明的なセリフが嫌いなんですね。説明的なセリフを極力排して、それを会話に見事に溶け込ませて、浮かび上がらせることができるかどうかがひとつの鍵ですね。
だから、やたら都合よく偶然出会ったり、舞台上に3人いるんだけど、脚本家が2人きりの会話のシーンを持ってきたくて、急に1人が「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」と部屋の外に出て行ったり、そういう「ああ簡単だなあ」と思えるような脚本は評価できないですね。演出やアイデアの斬新さを追い求めるのはいいけど、セリフが陳腐だとどうしても評価できない。「劇団を選ぶ時、森元さんは脚本重視だ」って、部下の森川もよく言います。

三鷹市芸術文化センター
【写真は、三鷹市芸術文化センター © ワンダーランド】

-三鷹という場所、地域性というお話が、先に出ましたが、都心の小劇場を見に行く演劇ファンの人たちを三鷹に呼び寄せようとなさっているのか、それとも地元の人たちにいい演劇を見てほしいと思っていらっしゃるのか、あるいはその両方なのでしょうか。

森元 うーん、よく「森元さんの野望は何ですか」って聞かれるんですけど、今、取りあえず目の前の野望は「三鷹の公演を見て、演劇を好きになってくださる人をなんとか増やして、どの劇団がここで公演しても、お客さんが必ず1000人来る」ことです。そうなれば、お声を掛けたどの劇団も絶対喜んでくれる。だって手売りとかしなくても、新しいお客さんが必ず1000人来てくださるわけだから。これを何とか実現したい。
 僕はヨーロッパがどうのこうのなんて言うのは好きじゃないですが、「欧米には、ふらっと週末に舞台を見に行く土壌がある」とよく言われますよね。日本はまだまだそこまで来てないと。だから「三鷹のホールで偶然、ふらっと芝居を見たら面白かった。今度はまた別の舞台も見てみようかなあ」という方が、なんとか増えないかなあと。
 観劇組織を作るとかいう従前のやり方ではなく、自然な形で、ふらっと観劇に来る人がどの芝居でも1000人。いや500人でもいい。考えようによっては500人って、すごく少ないんですよ。だって、東京ドームで巨人が野球をやったら毎日5万人ぐらい来るんですから。でも500人の人に「三鷹でやってる舞台は必ず見に行こう。今度はどんな劇団かしら、楽しみ。」って思ってもらえるのは並大抵のことではない。
 そのためにはまず、自分たちとしては自信をもっておすすめできる劇団をラインナップするというのはもちろんなのですが、それ以外のひとつの試みとして、ここ数年、ネクストセレクションを含め三鷹での演劇公演の多くで、高校生以下料金を1000円にしています。そして、三鷹市内を含め、中央線沿線の高校にはチラシを送っています。演劇ってチケット代が高いんですよね。2500円、3000円、4000円、ましてそれ以上の金額なんて、中学生や高校生の小遣いからそうは出せません。でも、1000円だったらもしかしたら払えるんじゃないか。
 その中で何人か僕みたいにだまされて、暗転が気に入ったでもいいから、お芝居を好きになってくれたらと。一時「0円にしようか」って検討したこともあるんですけど、まあそれは有り難味がないので、今のところ1000円。劇団に聞くと、三鷹だと客席にセーラー服がいつもより多いような気がする、そのセーラー服に引きずられて詰襟も来てるような気がするって言われるんですけど(笑)。
 中学生や高校生は、ストリートミュージシャンとかマンガとか〈自分だけのお気に入り〉って好きでしょう? そのひとつに演劇が加わらないかなあと。そんな風に、少しずつですけど、三鷹の舞台を必ず見に来てくださる人が、1人でも多くなればいいなあと願っています。
 初期には、企画書を出しても「三鷹は遠いよね」の一言で断られた劇団がいっぱいありました。悔しくて、チクショーってやけ食いしたことも何度かあります(笑)。悲しい思いをたくさんしてきたし、最近でも断られることはありますけど、まずいい劇団を見つけたとき、他の誰がつまんないって言おうが、自分が面白いと思ったらすぐに交渉して、それで三鷹に来てくださるということになったら、もう嬉しくて、チケットを売るぞー!って。さらにその作品がゲネプロを見たときに面白ければ最高だし、今ひとつの場合でも、粘りに粘って修正して少しずつ良くなっていくかもしれないし、自分が惚れた劇団だから最後まで責任持ってがんばろうって。
 だから、そんな劇団と出会いたいといつも思っているんですが、若手の劇団の人で、時々私なんかに「どうやったら売れますかねえ?」なんておっしゃる人がいらっしゃるんですが。例えばラーメン屋を開くなら、店構えをどうするとか、どう宣伝するとかの前に、まずはほんとにおいしいラーメンを作ることが先だと思うんですね。味はちょっと今風に調えてみました、女性に受けるトッピングですって感じで、どこにでもあるような味のラーメンを出しておいて「どうやったら売れますか?」って言われても、売れるわけがないと。
 まず、「これでまずいって言われるのならもういい」と思えるような、この店でしか味わえないラーメンを作って、お客さまに出すのが先でしょう、って僕は言うんです。それと同じように、脚本的にも演出的にも一切の妥協のない、まずは絶対的に自信のある舞台を作ってから、売れる売れないを考えてくださいと。ほんとにそう思います。(>>


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