連載企画「外国人が見る小劇場」 第1回

 どうしてそういう光景が生まれるのか、あとから分かりました。チケット・ノルマという制度が関係していた(笑)。俳優が自分で20枚、30枚のチケットを買って、というか買わされて、売れたらいいけど、売れなかったら自分で代金を払う。舞台に立つために、自分でお金を出してチケットを買う。お金を払って舞台に立つ。ちょっと訳がわからない。
 バイトと芝居しかやれなくて時間がないので演劇仲間しか誘えない。Aさんは別の役者Bさんの芝居チケットを買って見る。逆にBさんはAさんの芝居のチケットを買う。この狭い芝居仲間の範囲で経済が成り立っている。ああ、だから来るのは知り合いばかりになっちゃうんだ、と。ショックでしたね。劇団はノルマ制によって制作費を安定的に確保できるから観客を増やそうとしない。その悪循環で、ぐるぐる回っている。
 僕は、チケット・ノルマのある劇団とは付き合いたくない。付き合いたいと思う劇団にはノルマなんかなくせ、と言います。劇団はそれをどこかで打ち切らないと、成長できないと思います。

-確かに、悪弊に尽きますね。

「叫ぶ」俳優にも驚く

 もうひとつ驚いたことは俳優のこと、俳優の演技です。いや、ぶっちゃけた話、見てられない(笑)。最初は僕が日本語がわからないからだろうと思っていましたが、いくら言葉がわからなくても面白い芝居は面白い。言葉がわかるかどうかに関係なく、ダメなものはダメなんです。10本見たら、9.5本がダメ。
 俳優の演技が荒いからだと思いました。まず基本がない。「表現」じゃなくて、ただの自分の「叫び」になっている。実際、人生のストレスがどれだけあるのか知りませんが、とにかく叫び続け、そこで自分を燃やすこと自体が舞台に立つ意味なのかと思うくらい(笑)。それはもう辛かった。申し訳ないけど、小劇場の俳優のレベルは低いと思いました。
 後に周りに聞いてみたら、実際まともなカリキュラムで演技訓練を受けたことがある人が殆どいませんでした。俳優座や文学座などの養成所出身の俳優以外は単発のワークショップを受けた程度でしたね。
 いい演出家は少なからずいると思ったんですよ。それなのに俳優が作品にも演出にも、プラスにならない。当時はそう感じましたね。それならいい俳優を紹介しよう。作品の中で俳優が適切な役割を果たすことが、作品をいかに輝かせるか実践しようと思いました。

-舞台をよくするために俳優を紹介したのですか。

 俳優がプロの舞台で長く活動しているのは、基本的に演技の技量があるということですから、紹介の基準になるのは、合うか合わないかの問題ですね。ロジカルな考え方で作る演劇と、感性で作る演劇があります。ロジカルな演出には、感性の役者を連れてきても水と油で合わない。ロジカルな演出にはロジカルな俳優を、感性の演出には感性の俳優を合わせる。僕が紹介しようと思っているのは、現場でたくさん経験を積んだ人や、若くても安定感のある人。タイプに合わせた俳優の紹介をしています。

-日本の俳優を韓国に紹介したことはありませんか。

 俳優はまだですが、演出家や作品を紹介したことはあります。紹介したい日本の俳優をまだ探している(笑)。でも、世田谷パブリックシアターの「三文オペラ」(注4)に出演したときは、すぐれた共演者に恵まれました。やはり日本にもいい俳優が多くいるんだと思いました。

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