連載企画「外国人が見る小劇場」 第1回

折り紙付きのスタッフ

-特に小劇場の制作面について金さんは、どうして関係者だけで閉じこもるのか、外へ出たらいいじゃないかと、これまでたびたび言ってましたね。でも、日本の小劇場に全く魅力がないわけではないでしょう。どういう可能性があると思いますか。どういう可能性を見つけましたか。

 学会の発表などで韓国から来た人に会うと、日本で演劇を勉強しても帰る場はないと皮肉を言われる。どうして日本で演劇の勉強するのかと。最近はみんなヨーロッパに勉強に行きます。演劇の本場はヨーロッパ。しばらくアメリカ留学をするひとが増えた時期もありましたけど、ともかく、日本で何を勉強するの、という感じですね。僕は笑いながら聞き流しますけど。日本の演劇の特徴がまだ韓国にはあまり紹介されていないということでしょう。僕が日本で積み重ねてきたものが何か、どういう可能性があるのかは、徐々に伝播して行くつもりです。
 日本の演劇をみてきて最も感心したのは、スタッフのクオリティのすばらしさです。これは世界の人が驚くほどです。日本のスタッフは、とにかく計画的に仕事を進めます。プロ意識が高いです。与えられた仕事に対して、努力を惜しまない。文句からはじまる人もいたりするけど(笑)、それでも何かしら作ってくれる。長期的な計画を立てて、創作者とコミュニケーションをとることができる。一緒に未来を見て「夢」を共有し、力を合わせてくれる。そこがすばらしい。ぶれない芯がある。

呼吸の強弱と緩急

-ほかに目に付いた特徴はありますか。

 演技の面で言うと、韓国の俳優と日本の俳優では非常に違いがあります。韓国の俳優は「息」を長く保とうとせず、すぐに吐きたがります。息をこらえることが不得手です。しかし自由奔放なリラックスした演技はうまい。ドラマ的なものや感情のディテールの表現がとてもうまいです。でも、強烈なエネルギーを保ち続けるのは苦手です。
 それに比べて日本の俳優は息を吸い込むと、それを落とさずに維持し続けるんです。あの力はすごいと思います。
 僕は演技の「余白」というものを大事にしています。(世amIで上演した)「秋雨」も「葵上」もそうです(注5)。僕の言う演技における余白というのは、俳優が自分の演技にいくつかのはっきりとしたもしくは強い表現のポイントを置いて、そのポイントとポイントの間を空けておいて、観ている人がその間を解釈して、つないでいくことなんです。それは演じている俳優の息でもそうだし、ドラマの構成でもそうだと思います。
 そのポイントを置いておくやり方として、韓国の場合は、演技表現のポイント表してから、そのポイントを緩めて、再び表す。緩めるところで一緒に息を吐き出しながら、観客は、自分の感覚でポイントをつないでいく。
 日本の場合は、強く表して、隠してもしくは引っ込めて、また押し出す。完全に隠してしまう。「0」から「1」へまた「0」への移動と言いましょうか。隠してしまうから、表現される演技のポイントは「強く」表れる。
韓国の場合はつながっているから、「滑らかな」リズムになる。余白の作り方が全然違います。
IMG_0280 僕は、どちらも非常に有効だと思います。それはドラマで「世界」を見せたいのか、「人間」(または人間対人間の関係)を見せたいのかによって違うと思います。ドラマが人間を通じて「世界」を映すものであるならば、ポイントは強い方がいいし、「人間」を映すものであるならば、どっちかというと滑らかな方がいいと思います。
 韓国の息の柔軟性で人間を表し、日本的な感覚で強くポイントを押していくことで世界を表すことができるのではないかと思います。それが僕が追求しているやり方だと考えています。
 そういう面で韓国の俳優にこの強さを与えるのはなかなか難しいです。さっきも言ったように、彼らは息を長く保ち続けることに苦しむんです。自由に息を通したがります。逆に日本の俳優は、演技のポイントを強く押したがる特徴があるので、逆に柔軟に、リラックスする、という課題を与えると、楽に感じるんです。演じる上での自分の存在を認識することに幸せを感じますね。
 だから、僕のこの10年間の経験では、韓国で緩いという基礎の上に強さを求めるよりは、日本の強い基礎の上に、必要に応じて緩めた方がやりやすいし、効果的に感じました。だから日本人がもともと持っている二拍子の感覚とか、農耕民族の、能みたいに一点に向かって歩いていく、線を引いていくような美学とか、いろんな言い方ができるけど、その上で緩めることを加えたパターンで芝居を作っていきたい。それによって最も日本と韓国の身体美学の良さを活かした舞台表現というものを追求していきたいと思っています。
 もともと日本の俳優が持っているその良さといっても、もちろん、誰もが出来ているわけではない。でも訓練することで、その良さを見い出す。そうすると俳優は安定感を感じる。安定感を感じたところで緩めの演技を身につけると俳優は開放感と幸せを感じる。そういう日本の俳優の良さを生かしていきたいですね。

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