連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第10回

 森元隆樹さん(三鷹市芸術文化振興財団事業課事業係長)
◎惚れた作品にとことんこだわって

 座・高円寺や吉祥寺シアターなど、中央線に点在する公共劇場の中で、先駆的存在なのが、ここ三鷹市芸術文化センターです。以前は駅からバスに乗って行くのが少し遠いと感じたが、いつのまにか、さほどに思わなくなってきたという声も聞きます。個性的なラインナップやロングラン方式など、独自の手法が功を奏しているのかもしれません。演劇公演の企画運営に携わっておられる森元隆樹さんに、劇場法(仮称)へのご意見も含めて、熱い想いの溢れ出るお話を伺いました(編集部)。

||| 公演中止で電話をかけ続け

-このインタビューは、どういう環境で舞台作品が作られているかを、現場の方から伺おうというものです。あわせて、劇場法へのご意見もお聞きしたいと思います。実は、3月11日の地震後、初めてのインタビューなんですが、あの折は、どんなご様子でどのような対応をなさいましたか。

森元隆樹さん森元 当日はうちの主催事業はありませんでしたが、一般利用でホールを借りていらっしゃった方が皆、帰宅困難者になりました。ここに泊まってもらおうかという話も出ましたが、三鷹市が駅前に宿泊場所を確保したという情報を得たので、私も含めた職員が誘導して、そちらで一晩過ごしていただきました。
 その上で、施設に関してはもちろんその日のうちにチェックしましたが、窓ガラスが割れたりとか、ひびが入ったりとか、そういう被害は全くありませんでしたし、市からもすぐに公共施設課の人が来て「被害なし」という結果が出ました。ですので、施設的には大丈夫だったのですが、その後の計画停電によって、幾つかの公演を中止にせざるを得なくなりました。
 計画停電に関しては、とにかく情報を注視していましたが、日曜日の夜10時ごろに急遽実施の発表があり、深夜12時ごろになって「翌朝の電車が軒並み止まる」という報道がされ始めて「これは明日はパニックだぞ」と思っていたら案の定でした。テレビでは「詳しくは東京電力のカスタマーセンターへ」と言っていたのでずっと電話してましたが、もうまったく繋がらなくて。そして東京電力のHPもなかなか開かない。で、ようやく開いても、どの地域がどのグループなのかを探るにも町名の重複が多く、これは見切り発車だなあと思いました。
 そして、ホール自体は休館日だったのですが、月曜日の午後、財団幹部が集まって対策会議を開いていたところ、その会議の最中に三鷹市から「3月18日まで、午後5時以降は全施設を閉館する」という決定が出たので、まずは16日夜に予定されていた落語会が実施できなくなり、すぐにお客さまに連絡を始めました。
 他館でもそうだと思いますが、公立ホールという性格上、新聞に「公演は中止になりました。払い戻し方法は云々」と広告を載せたらそれで終わりということにはならないので、チケット購入者全員に連絡をするということになります。公演当日、わざわざ会場にいらっしゃって「え~中止~」とがっかりされる人を0にするための重要な仕事。しかも日がなくて。実際のところ、電話をするというのは一通り掛ければ終了ってものではないんですね。お留守の方、留守電の方、家族へのご伝言の方、もういろいろなので、すぐにマニュアルを作り、アルバイトにも来てもらって作業をしました。
 そうしたらその後、市からさらに「3月中は全施設を午後5時で閉館」という決定が出たので、結局、3月末に予定されていた、都合4つの担当公演が中止になりました。
 実は私は、演劇と落語と映画と古典芸能の企画担当なのですが、中止になった公演の中には868席完売だった落語の公演もあったので、連絡をした総数は全4公演で1500件くらいになったと思います。お電話をすると「このご時勢だから仕方がないね」とおっしゃっていただける方が多かったですが、中には「何で中止にするんだ!」と怒る方もいらっしゃいましたね。で、精一杯がんばったのですが、結局どうしても連絡が取れなくて、当日会場にご来館になってしまった方が、各公演で2名~3名いらっしゃったのは、本当に申し訳ないですし、残念でした。

-大変でしたね。

森元 でも、お客さま商売ですから、こういう混乱が生じた時にしっかりとした対応を取るというのは普通のことだと思います。精一杯の作業の中から、もしかしたら滲み出るように「三鷹市芸術文化センターは迅速かつ臨機応変に対応してくれたなあ」とか「公演中止になったけど、フラストレーションなかったなあ」とかお客さまに思っていただけたなら、もうそれは望外のありがたさです。そういった、お客さまの感情のひとつひとつの信頼の積み重ねだけが、ホールを愛していただけるかどうかの生命線ですから。
 だからことさら「三鷹はすごいでしょう。こんなこともこんなこともするんですよ」とか言うのは好きじゃなくて「自分がお客さんだったらどう思うか」それを懸命に考えて、やれることは全部やる。ただそれだけです。僕は、自分が気が利かない人間だということを自覚しているので、偶然気がついたことだけは全部やるんだと肝に銘じているだけなんです。
 それは、開催している演劇や落語などの公演でも同じですね。見る人が見ればすごいかどうかなんてすぐ分かるわけで。だから、常に自分たちのできることを精一杯やって、評価や結果は、後日お客さまが決めてくださるものだと思っています。
 なので、確かに1500件近くの連絡は大変でしたけど、いつも通り丁寧に進めていくだけでしたね。
 ただ今回改めて気付かされたのは、インターネットの重要性です。震災後、多くの方から「公演どうなりますか?」といただいていた電話が、財団としての対応が決定し情報をHPにアップしたとたんに、ピタッと止んだんですよ。ああ、そういう時代なんだな、みなさん自分がチケットを購入されている公演については、まずはHPで確認されるんだなと強く思いました。危機管理の第一段階として、何か決まったら、すぐにHPにアップするとかメールで流すというのは心がけていこうと認識を新たにしました。

||| 初演直後に再演を決めた『わが星』

森元隆樹さん森元 4月に入って、まだまだ余震もあるけれど、少しずつ計画停電も落ち着いてきましたので、予定されていた公演を実施できるようになりました。上旬に落語会を2つ開催させていただいて、4月15日からは劇団ままごとの『わが星』が始まっています。何とか無事に終えたいと願っています。

-『わが星』は評判がよくて、チケットがなかなかとれないようですね。

森元 本当にありがたいことです。初演のときにゲネプロを見て「これは相当面白い」と確信しました。シンプルだけど力強いスタッフワークや、演出に応えていく役者さんの演技、そして特に柴幸男さんの脚本が素晴らしかった。もともと、柴さんの隙のない演出力やセリフの角度が好きだったんですけど、『わが星』では、今までの集大成のような作品を書き切っていただけたなあと思いましたね。初演の時は、初日二日目あたりまではお客様の数も普通だったんですが、日を追うごとにどんどん増えていって「どうやらツイッターで絶賛されているらしい」という声が入ってきて。恥ずかしながら私自身はこの時初めて「ツイッターの威力」を知りました。で、評判が評判を呼んで、最終日には当日券を求める長蛇の列ができて、びっくりしましたね。

-で『わが星』の再演に向けて交渉されたと。

森元 このホールのオープンが1995年11月で、開館以来ずっと私が演劇担当でしたので、過去16年間いろいろな劇団とご一緒してきましたし、2度目3度目のご出演という御縁ができた劇団もありましたが「三鷹で初演した公演を再演してもらおう」と思ったのは『わが星』が初めてでした。この作品は絶対に再演に耐えうるし、もう少し多くの人に見てもらいたいなあと純粋に思ったんですね。
 地球と月が年に3.8㎝ずつ離れていくというセリフの後、仲良くなったちいちゃん(地球)と月ちゃん(月)の人生の距離が少しずつ離れていったり、姉と妹や、家族の何気ない会話が本当に生きていて、やがてその少女「ちいちゃん」の一生が、いつしか「地球」の一生に重なっていったり・・・。これはちょっとすごい作品だなあって。だから初演の千秋楽の4日後に「ぜひ再演させてください。今度はロングランで」とお願いしたんです。OKをもらえた時は、本当に嬉しかったですね。
 その上で今回、セリフがものすごく心にダイレクトに飛び込んでくるっておっしゃる方が多いんです。初めて見た方だけではなく、初演を見てくださっている人も声を揃えておっしゃる。でも実は脚本は初演とほぼ変わってなくて、変わったのは震災を経た上でのお客様の心持ちの方だったんですね。「子どもたちはいる?」「いるに決まってるでしょう」といった何気ないセリフの中に、地球に生きて、やがて死んでいくことへの普遍性が描かれていることを、多くの人が驚きを持って見てくださった。
 震災後、自分の感情をどのように表出していけばよいかつかみあぐねていた方の前に、人類がどうこの地球上に立ち続けるのか、その正解ではなくて、ひとつの答えを見事に提示していった。宇宙の大きな時間の流れの中では、人類が生きて死んでいくというのは、本当に瞬きほどのことかもしれないけれど、今地球上に生きているひとりひとりをきちんと見つめたとき、そこに確かな重さが宿っている。そういうメッセージを内包したスケールの大きな作品であることを、多くの人が感じ入ってくださった。前回よりも評判がいいですね。(>>

「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第10回」への6件のフィードバック

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