振り返る 私の2014

 年末回顧「振り返る 私の2014」は、小劇場の演劇・ダンスなどから3作品を選び400字でコメントする恒例のアンケート企画です。すべてが全く違わずに演じられる舞台はないように、同じ年が再び巡ってくることはありません。選び抜かれた3本の集合体は、二度と体験できない2014年という年の色や形や音や匂いの記憶を、どこかに留めるものとも言えるのではないでしょうか。掲載は到着順です。(編集部) 

西尾佳織(劇作家、演出家、鳥公園主宰)

  1. 地点「光のない。」
  2. SCOT「シラノ・ド・ベルジュラック」
  3. おかっぱ企画「竜の煙」

チラシ1 地点は、特に言いたいことがないです。SCOTは、作品本編は実はそんなに面白くなかったのですが、前説と後説で喋る鈴木忠志さんの在りように涙ぐみました(とは言え、前説から本編、後説、そしてそれに続く鏡割りまで含めての感じが良かったのですが)。おかっぱ企画は、細かいことは覚えていませんが、出演者全員のびのびしていて、「おいおいメチャクチャだな!」という感じもけっこうあって、好きでした。鈴木燦さんという男の人の、身体や顔付きの感じがなんとも言えない味わいで、よく覚えています(先日、街で見かけてドキドキしました)。あとは、カトリ企画「紙風船文様」(鎌田演出)と、映像ですが「シアトリカル」(唐十郎と唐組のドキュメンタリー)と、シュリンゲンジーフの「外国人よ、出ていけ!」が良かったです。鎌田さんの「紙風船」は、「そうだよね! 私も『紙風船』ってこういう話だと思ってた!!」と、自分も演出した戯曲について思わされて、いい体験でした。演出の小利口や俳優の弱々しさ従順さにクサクサしょんぼりした一年で、とにかくちゃんと立っていてエネルギーがあって魅力的な人が出て来て欲しい、と求める気持ちは来年に続きます。
(年間観劇数 40本) 

矢野靖人(演出家、shelf代表)

  • SCOT吉祥寺シアター公演、鈴木忠志の世界「トロイアの女 & からたち日記由来」(「トロイアの女」作:エウリピデス、構成・演出:鈴木忠志「からたち日記由来」作:鹿沢信夫、演出:鈴木忠志)
  • 「ミス・ナイフ、オリヴィエ・ピィを歌う(Miss Knife chante Olivier Py)」

チラシ2(矢野・scot) もはや恒例となった感のあるSCOTの12月吉祥寺シアター公演。今年は伝説の名作「トロイアの女」の再演と、新作「からたち日記由来」の連続上演。グローバリズムが地上を席巻した昨今、宗教はもはや単に人を殺めるための理由の一つに過ぎず、決して人を救えない、という鈴木忠志の徹底したリアリズムが、偏狭で近視眼的なニッポンの状況に穴を穿ち、観る者の胸を深く抉った。もう一本は、現代フランスを代表する劇作家・演出家・映画監督・俳優オリヴィエ・ピィ。知る人ぞ知る超大物文化人が、幻の歌姫ミス・ナイフとなって贈るシャンソン・ライブ@静岡芸術劇場。何もかもがまさに最高! のクリスマスプレゼント。艶やかでセクシーでダイナミックで、そして詩の言葉! 強くリリカルで、あらゆる修辞を駆使しているのに決して難しくなく、柔らかい、そして微かに死の匂いを感じさせる。そんな言葉を全身に浴びて。最高でした。
ysht.org」)
(年間観劇数 41本)

谷 賢一(DULL-COLORED POP主宰/作家・演出家・翻訳家)

  • 世田谷パブリックシアター「炎 アンサンディ」
  • 青山円形劇場プロデュース「夕空はれて~よくかきくうきゃく~」
  • 葛河思潮社「背信」

チラシ3「炎」には度肝を抜かれた。これほど切実な本を書ける劇作家は日本にはいない。題材が切実というだけでなく、言葉が切実。嫉妬もあるが、恥ずかしく感じた。「夕空はれて」、今年観た中で一番笑えたし、一番恐ろしい。笑いと恐怖、この隣接した二つを見事に繋げた。同じく「背信」も気づいたら呑まれていた。三本並べてみて、気づく共通点がいくつか。時代を超える戯曲。劇作家は詩人である。人間が生きていることが一番スリリング。世界は破綻しかけている。
(年間観劇数 約80本) 

高橋英之(ビジネスパーソン)

  1. Bunkamura 「冬眠する熊に添い寝してごらん」(作:古川日出男/演出:蜷川幸雄)
  2. マーク・アンドレ・ダルバヴィー「Charlotte Salomon」(ザルツブルク音楽祭演劇公演)
  3. 木ノ下歌舞伎「三人吉三」(Kyoto Experiment 2014公演)

チラシ4 ハイバイ「おとこたち」、シベリア少女鉄道「ほのぼの村のなかよしマーチ」、城山羊の会「トロワグロ」、イキウメ「新しい祝日」と、今年も素敵な作品に出会えました! 一方、むしろ劇場の外で、膨大な時間を費やしてしまう作品にも遭遇。宮沢章夫「時間のかかる読書」の演劇版があることを、確認してしまった年にもなりました。中でも、極端に時間を費やしたのが、上記の3作品。「冬眠する熊…」と「Charlotte…」は、観劇後に国会図書館を2往復ずつして、逆に背景の重さと深さに圧倒されて、結局なにも書けませんでした。逆に、困った例は、「三人吉三」。過去に自分が歌舞伎座や南座で観た番付を確認して、底本だけでなく、元ネタの洒落本まで通読して、渡辺保、小林恭二、さらには明治期の劇評まで読みまくって、万全の体制で観劇。しかし、上演は、あっけないほど原作に忠実で、よくできた学園祭の出し物という印象に止まりました。非常に残念、来年に期待!
(年間観劇数 43本(予定)) 

飯塚数人(人形劇研究家)

  1. ズィメルマン エド・ペロ「ハンスはハイリ~どっちもどっち?!」(TACT//FESTIVAL2014)
  2. ナセラ・ベラザ「鳥」「渡洋」(Dance New Air 2014)
  3. モ・サ「彼は言った/彼女は言った」(フェスティバル/トーキョー)

チラシ5 演劇・舞踊祭の来日公演ばかりになってしまいましたが、三本ともかなり質の高い作
品で大満足。
聖なるブログ 闘いうどんを啜れ
(年間観劇数 18本) 

高橋秀子(年金生活者)

  1. ワンツーワークス「流れゆく庭 -あるいは方舟-」
  2. 東京芸術劇場「おそるべき親たち」
  3. 新国立劇場「マニラ瑞穂記」

チラシ6 今年は小劇場に再会したと言える。理由は三つ、ワンダーランドのサイトを見つけたこと、定年退職をきっかけに池袋演劇祭の審査員を務めたこと、そして何より年金生活者になり芝居に遣えるお金が減ったことである。本当に小さな芝居小屋という雰囲気の劇場にも足を運び、(玉石混淆といいつつも)以前と比べ小劇場のレベルは確実に上がってきていると感じた。しかし、今年の3本となると、自然災害と人間の有り様を描いた「流れゆく庭」、エロさ極まった「おそるべき親たち」、女の心意気に共感した「マニラ瑞穂記」と、ある意味保守的な選択になってしまった…。
(年間観劇数 43本) 

住本剛史(野球のフリースカウト/観劇家)

  • 維新派「透視図」
  • 劇団ZTON エンタメストライク003「覇道ナクシテ、泰平ヲミル[蝕王曹操編]」
  • Ensemble Sonne「迷い」

チラシ7 まず大阪・中之島GATEサウスピアの屋外特設舞台で維新派による上演「透視図」を挙げます。昨年、犬島で「MAREBITO」を初めて観てあまりのクォリティーの高さに驚き頭の中が真っ白になるくらいの衝撃を受けて、迷わず今年も観劇しました。借景を見事に取り入れた舞台空間でのパフォーマンスや音楽、そして屋台村の存在などあらゆる面で魅せられました。
 次に、劇団ZTONは「覇道ナクシテ、泰平ヲミル」で[蝕王曹操編]と[偽王劉備編]を上演。私は前者しか観劇できなかったものの、迫力のある殺陣に圧倒されつつも展開が分かりやすく、「三国志は難しくてよく分からん」という私の先入観を良い意味で覆してくれました。2つの異なる視点からの物語を観られなかったのが唯一の心残りでした。
 最後に、これまでダンスを観る機会は少なかったものの、アートシアターdB神戸で上演のEnsemble Sonneによる「迷い」を観て、身体の動きのみ使っての表現の素晴らしさを感じ取る事が出来るようになり、とても印象に残っています。
 私は京都を拠点にして観劇活動をおり、「今年の3本」からは漏れたものの、ナントカ世代や努力クラブなど個性的であったり、又、今後の活躍が期待できる劇団も多々あるので、来年も更に注目しながら観劇していくつもりです。
野球場へ行こう!!
(年間観劇数 約70本)

小池正之(会社員 郷土芸能愛好家)

  1. 新国立劇場「マニラ瑞穂記」@新国立劇場中劇場
  2. iaku 「流れんな」@三鷹市芸術文化センター
  3. ハイバイ「おとこたち」@東京芸術劇場

チラシ8「セリフにこだわる」ってどんなことなんだろう。きっとやりとりから見えないものが見えてくる魔法のことなのだろう。1は独立戦争さなかのマニラを舞台に男と女、官と民、善と悪といった対立が浮かび上がってきた。役者がベテランも若手もよかった。何より秋元松代の濃密な世界が見られたことが楽しい。2は、ため息交じりのやり取りから、企業悪、出生前診断、行き場のない思いが立ち上がってきた。こちらは現代日本の地方に転がっていそうな話を一見軽いやり取りに包んだところがニクい。3はシンプルな空間でのまぬけなやりとりが、何十年もの時間の蓄積を見せてくれて悲しい。人生ってひょっとしてこんなもの? おじさんの心を打ったというが同感だ。
(年間観劇数 30本) 

薙野信喜(演劇感想サイト「福岡演劇の今」)

  1. KARAS「何処から誰が」
  2. Doosan Art Center+東京デスロック+第12言語演劇スタジオ「가모메 カルメギ」
  3. けちゃっぷゆでたまご「木になる僕らのものがたり」

チラシ9 ありがたいことに今年も首都圏や関西からの公演を地元九州でかなり多く観られた。上記の、「何処から誰が」は国東半島芸術祭で、「カルメギ」は北九州芸術劇場のキタキュー・小劇場・コレクション2014秋で、「木になる僕らのものがたり」はひた演劇祭で観た。このような演劇祭やまとまった上演があるのはありがたい。
 ほかには、青年団+大阪大学ロボット演劇プロジェクトアンドロイド版「三人姉妹」、康本雅子「絶交わる子~2人バージョン」、公共ホール演劇ネットワーク事業「暗いところからやってくる」、IAKU「人の気も知らないで」、川上未映子×マームとジプシー 「『まえのひ』他」、ハイバイ「おとこたち」などが印象に残った。
 九州の劇団の公演では、けちゃっぷゆでたまご「木になる僕らのものがたり」・劇団こふく劇場プロデュースみやざき◎まあるい劇場「奏でる」の作・演出と演劇・時空の旅シリーズ「シラノ・ド・ベルジュラック」の演出をした永山智行の活動が目立った。ブルーエゴナク「HAPPY」、演劇エンジン南無サンダー「侠宴やんや リベンジ!」、劇団 go to「タンバリン」(九州戯曲賞大賞受賞作)も楽しめた。天野天街が熊本に滞在して演出した雨傘屋「禿の女歌手」もおもしろかった。
福岡演劇の今
(年間観劇数 約150本) 

ますだいっこう(俳優/校正者)

  1. Die heilige Johanna der Schlachthöfe(屠畜場の聖ヨハンナ)(@Schaubühne Studio(シャウビューネ劇場))
  2. 「Bodieslanguage」(Matanicola & the Progressive Wave、@Ballhaus Ost)
  3. 「animal / vegetable / mineral」(マイケル・クラーク・カンパニー、@ベルリナー・フェストシュピーレ、ダンスフェスティバル「8月のダンス」)
【Die heilige Johanna der Schlachthöfe公演より】
【Die heilige Johanna der Schlachthöfe公演より】

 ベルリンで無節操におもしろがって観た中から…1.ヒューマンビートボクサーも加わる演出はもちろん若き俳優陣の生き生きした演技が素晴らしいブレヒト劇。2.聾者話者・人種・性的指向混ぜこな演者群が繰り広げるボディ[スラング]ランゲージ。チャップリン「独裁者」演説を手話で熱弁する終景に鳥肌。3.姐さん相変わらずの変態っぷり素敵〜、バーレッスン紛いから次第に淫らになる振りまで黙々こなすダンサー特に男子に身悶え。その他:役なりきりパフォーマーと遭遇する、いかがわしさ凝縮インスタレーション「MEAT」、広壮な戦争モニュメントでの同時散発ダンス「20 Dancers For The XX Century」、記憶を主題にしたコンスタンツァ・マクラス&ドーキーパーク「The Past」、夫婦の煮詰まりを過剰と抑制とで曝くオスターマイアー演出「Dämonen」(ラーシュ・ノレーン戯曲集訳題「悪魔たち」)。
ますだいっこうのあと
@ikkomsd
(年間観劇数 約110本)

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【注】
・記憶に残る3本は「団体(個人)「演目」」を基本とし、劇作家、会場、上演日時などを追加した場合もあります。
・演目名は「」でくくりました。
・ブログやツイッターのアカウント情報などはコメント末尾に記しました。

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