振り返る 私の2008

柳沢望(会社員、「白鳥のめがね」)

3. 岸井大輔演出「文(かきことば)」発表会(9月20日 夏目漱石『夢十夜』より第三夜 出演:矢口恵子)
2. Potalives R.参加作品 田口アヤコ作演出『オキルタメニハネムルシカナイ』(4月19日、20日上演の初演版)
1. Potalives R.参加作品『ハンサムな半生』の、児童公園のパート(3月15日、16日上演。作品全体でなく、その一部分だけを評価している)

今年見られた演劇の私的ベスト3をカウントダウン。ポタライブ以外の岸井の仕事がすごくなりそうな予感を感じさせてくれたということで、3を。21世紀前半の日本を代表する演劇の方法になるかもしれない。次に、岸井本人の思惑を超えて、ポタライブが様式として生き始めていることを示していた点で2を。街をまるごと借景するスタイルとして完成していた。最後に、公園で遊ぶ子供たちを巻き込んだひとときがあまりに素敵だったので1を。たまたま遊びに来ていた地元の子どもたちが即興のエキストラに。演劇の力とは、そもそもありきたりな公園の遊びを楽しくしてしまうようなものじゃないか。岸井関連ばかり見たが、それで十分だった。年間観劇本数約15本。

藤原央登(『現在形の批評』主宰)

  1. 「東京はアイドル」公演悪い芝居「東京はアイドル
  2. 地点「話セバ解カル」
  3. 七味まゆ味一人芝居「いきなりベッドシーン」(柿食う客企画公演)

昨年に引き続き、京都の若手劇団悪い芝居の舞台を上位に挙げる。若者にとって、憧憬の対象とせざるを得ない「東京なるもの」たちへの複雑な心境を、演劇制度との格闘と併せて正直に提示した。彼らは来春、東京公演を予定している。幻想を引き寄せ現実原則へ還元された後、どう変化するか注視してゆきたい。また、関東近郊の方々は是非観て頂きたい。同様の文脈で、膨大な言葉の渦に一個の身体を傷つけんばかりにさらし続けた2つの舞台(地点は役者陣による演説演劇という形の、一種の一人芝居であった)も、舞台上に立つという意識と覚悟を思想する重要な作品であった。年間観劇本数96本。

◇山下治城(プロデューサー、「haruharuy劇場」)

  1. 「焼肉ドラゴン」公演新国立劇場「焼肉ドラゴン」(鄭義信作、梁正雄・鄭義信演出)
  2. パルコプロデュース「sister」(作・演出:長塚圭史)
  3. 世田谷パブリックシアター+コンプリシテ「春琴」(サイモン・マクバーニー演出)

この3本はまったくテイストの違う舞台である。その3本がベスト3に選出されたということは現在の舞台芸術の多様性を言い表しているような気がする。ここに挙げた3本以外にも見て良かったと思った作品があった。何本かに1本そのような舞台に出会うことが観劇をやめられない最大の理由なのかもしれない。他に印象に残ったものとして、再演となるが「歌わせたい男たち」(二兎社)、そして、深浦加奈子さんの遺作となった「新しい橋」(城山羊の会プロデュース)「表と裏とその向こう」(イキウメ)デビッドルボー演出の「人形の家」、燐光群「戦争と市民」などが挙げられる。また、新しい潮流として「ジンジャーに乗って」(快快)や「あゆみ」toi presents 3rdなどが印象に残った。年間観劇本数=約130本。

中西理(演劇舞踊評論、「中西理の大阪日記」)

  1. 「鳥のまなざし」公演維新派「呼吸機械」(わ湖さいかち浜特設水上舞台)
  2. ポかリン記憶舎鳥のまなざし
  3. SPAC「ハムレット」(静岡芸術劇場)

維新派「呼吸機械」はここ数年追求してきたダンス的要素の強い「動きのオペラ」のひとつの到達点を示した。特に最後はパフォーマーが流れる水の中で演技し飛び散る水しぶきが照明の光を乱反射して輝き、野外公演ならではのだいご味を見せた。50人近い大群舞は維新派上演史に残る珠玉の10分間だった。
ポかリン記憶舎「鳥のまなざし」も異界との邂逅を志向した明神慈の戯曲世界とパフォーマンス「和服美女空間」で試みてきた形式が融合し新たな舞台の可能性が具現化した。SPAC「ハムレット」も芸術監督となった宮城聰がその真価を発揮した舞台で、ク・ナウカ時代の傑作群と肩を並べた。偶然ではあるが身体表現色の強い好舞台が今年は目立った。年間観劇本数=190本。

片山幹生(早稲田大学非常勤講師、「楽観的に絶望する」)

  1. 「あゆみ」公演toi 「あゆみ」(柴幸男演出)
  2. 三条会アトリエ公演「近代能楽集」全作品連続上演
  3. 庭劇団ペニノ「苛々する大人の絵本

柴幸男の演出作品を今年は三本見る機会があったが、いずれも着想の斬新さに驚かされた。洗練された独創的な仕掛けによって提示される非凡な演劇的世界に魅了された。
三条会のアトリエ公 演による三島由紀夫の「近代能楽集」全作品連続公演は、今年の演劇界におけるもっとも重要な成果だと私は思う。強度の強い独特のデフォルメによって戯曲の 持つ潜在的可能性を押し広げつつも、そこで提示される解釈はきわめて正統的であり、戯曲のエッセンスがしっかりと伝えられている。表現のオリジナリティという点では、庭劇団ペニノも相変わらず強烈だった。「苛々する大人の絵本」は定員20名ほどのマンションの一室での公演。隠微でマニアックな空間で繰り広げられる、狂気じみた荒唐無稽のセンスが壮絶にかっこいい。年間観劇本数約140本。

小林重幸(放送エンジニア)

  1. 「フリータイム」公演快快「ジンジャーに乗って」
  2. チェルフィッチュ「フリータイム」
  3. ハイバイ「て」」

今年は各劇団が各々の持ち味を進化させる一年であったように感じる。
その視点で最も気になったのは「ジンジャーに乗って」(快快)。きわめて個人的な心の在り様を街、地域、自然とフラクタルな様相で身体とともに描く手際は鮮やかで、更なる可能性を感じた。「フリータイム」(チェルフィッチュ)は時間軸の表現に演劇世界構築上の進化を感じる。「て」(ハイバイ)は多視点による物語構成で人物の心情の説得力を強固にしており見応えあった。年間観劇本数 約160本。

◇野原岳人(のっぱさんの観劇日誌

  1. 「瀕死の王」公演劇団みひろざくら「巌流島の参刀譚」
  2. あうるすぽっとプロデュース「瀕死の王」(イヨネスコ作、佐藤信演出)
  3. la compagnie An「鳥の眼」

今年の選出基準は『通りすがりの演劇』。情宣や劇場設備に頼らない『素の演劇の魅力』という視点にて。三作は順不同ながら、無名の団体の推薦的な紹介として、昨年に続き大阪の『劇団みひろざくら』をチラシ画像の出る一位に。毎回創作される『歴史ロマン』は脚本力も素晴らしい。『鳥の目』は、感性の多元化と抽象化が独特で、欧米追随ではないアジアのアイデンティティがある。『瀕死の王』は、すべてが整ったメジャーなプロジェクトであるが、逆に劇場や俳優の『素』という点を浮き出させた。
別枠ではルヴォー演出『人形の家』、新国立劇場の『屋上庭園/動員挿話』、川村毅が演じた『毛皮のマリー』、風琴工房『hg』など、俳優陣に感謝。年間観劇本数78本。(2008年)

竹重伸一(舞踊批評家)

(観劇順)

偶然にもダンスのグループ作品、ソロ作品、演劇作品という組み合わせになりました。大橋可也&ダンサーズに関してはこのワンダーランドに評を書かしてもらいましたので、是非そちらを読んで頂きたいです。多くの人が舞踏をもはや自体遅れの窓際族のように考えているかもしれませんが、上杉満代の踊りを観ればそれが大きな間違いであることに気付くでしょう。「狂人日記」では演劇を観て久し振りに戦慄が走る体験をしました。国際コラボレーション企画にありがちな安易さは全くなく、魯迅が近代の初めに表現した偽善的なヒューマニズムに対する憎悪を現在のグローバルな資本主義の苛烈な競争社会の真っ只中に甦らせることに見事に成功していたと思います。年間観劇本数は正確ではありませんが、150本前後ではないかと思います。

◇門田美和(会社員)

  1. 「冒険王」公演五反田団「すてるたび」
  2. 青年団「冒険王
  3. 世田谷パブリックシアター「The Diver」(野田秀樹 作・演出・出演)

My 2008年は、観客の臓腑をえぐる作品よりも、気持ちのよい鈍痛のような作品の観劇感が高かった。1の半覚醒的なストーリーはまるで起きながら見る夢のよう。リアルなのは主人公だけで、以外は主人公の脳内ワールドで存在という構造も実は相当複雑で、役者はどう演じていいか相当困ったのではないか。葬る行為を通してなおつのる冥漠とした喪失感や、作品のそこここに散らされた笑いも好きだった。2は再々演にして初観劇。海外で留まる人と旅立つ人の各々の事情と決意に深頷。敢えて押すまでもないことだが、帰国子女、帰国してない子女を含む海外滞在経験者のツボはまりまくりの 銘。3は源氏から現代まで、英語のセリフが導く千年分の和風ワールドに酔いしれた。年間観劇数約120本。

矢野靖人(演出家、shelf主宰、「ysht.org」)

  1. 「剣を鍛える話」公演鳥の劇場「剣を鍛える話~魯迅「故事新編」より~」(Shizuoka 春の芸術祭2008)
  2. かもめ・・・プレイ」(ブラジル、エンリケ・ディアス演出、Shizuoka 春の芸術祭2008)
  3. SCOT「サド侯爵夫人(第2幕)」(鈴木忠志演出、利賀フェスティバル〈SCOTサマー・シーズン〉2008

今や日本を代表するリージョナルシアター鳥の劇場が再演を繰り返す代表作。昨年12月に初演を見ていたのだけど、今年も静岡で観劇。このカンパニーの活動を無視しては、今、日本の現代演劇は語れないと思う。二本目は同じく静岡の野外劇場で観劇したブラジルのカンパニー。これ以上に自由な「かもめ」はなかなかお目にかかれないだろう。最後、再始動したSCOTの新作、再演。今年から再び利賀に活動の拠点を移した鈴木忠志演出作品。いろいろあるかもしれないけれど、とにかく作品に力があって純粋に面白かった。東京で観ていないわけではない。偏りもあると思う。だけど年々、本当に面白い作品が東京に少なくなってきている気がする。年間観劇本数60本程度。

* 初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」年末回顧特集2008臨時増刊号(2008年12月21日、22日発行)
劇団webサイトへのリンクが基本ですが、公演ページがあればそちらにリンクしました。サイトの改廃、ページ内容の変更、リンク切れなどがあるかもしれません。その際はご容赦ください。見出しの回答者名をクリックすると、ワンダーランド寄稿一覧が表示されます。