城山羊の会「効率の優先」

10.「効率の優先」というタイトルの舞台を観て(齋藤陽子)

 城山羊の会の舞台は過去に2回観たことがある。開始10分以内で登場人物の会話と関係性にいつの間にか惹きこまれ、あっという間に時間が経っていくような舞台という印象だ。
 私は、「効率の優先」というタイトルだけ見ると、仕事の効率を優先させるお話なのではないだろうかと、想像する。しかし城山羊の会には過去2回とも、想像を超えたところで裏切られる内容の展開に、良い意味でも悪い意味でも驚かされてきた。それなのになぜか次も観たくなる独特の個性を持っている。だから上演前から良い意味でソワソワしていた。ここで言う『効率』とは、一体どんなものになるのだろう。

 まず初めに驚いたのは、上演前に渡された当日パンフレットに記載されていたご挨拶が、すごいものだったということだ。パンフレットのご挨拶の部分を、作・演出の山内ケンジさん本人ではなく山内さんの奥様が書いているのである。旦那様が台本執筆中に精神に異常をきたして入院していたというのだ。
 内容が内容なので、本当なのか冗談なのかわからず、山内ケンジさんの体調は果たして大丈夫なのか。無事ご本人は本番を見届けることができているのか。とても心配になった。しかし次回公演は決定していると書かれていたので、次回もあるのかと、とりあえず安心したが、果たしてこのパンフレットの内容は上演舞台に関係しているのだろうか。だとすれば舞台は精神的に参った人達のお話なのか。

 舞台に目を向けると、デスクが何台かと動いたり回ったりする椅子がいくつか、デスクの上には電話や資料などが置かれている。すると突然電話が鳴る。そこへ男(秋元)がやって来て、電話に出る。そうやって自然に舞台がスタートした。

 続いてスラッとした女性(神崎)がやって来ると、突然秋元に、部長の事が嫌いだと暴露し始める。更に、自分は小松課長にセクハラされているということを打ち明け、去っていく。このやり取りで、この部署には嫌な部長とセクハラ課長がいるのだと分かる。神崎はおしゃれで美人だが、どこか訳ありの印象だ。
 そこへ高橋と添島がやって来る。高橋は華奢な女性で、添島に甘い言葉を囁いている。対して添島は大柄で少し強面の無口な男性のようだ。秋元は、二人の様子から、高橋と添島が社内恋愛中であることを初めて知ったようである。何の関係もない秋元は居心地が悪く、どういう反応をしたら良いかわからないような、動揺している様子が笑えた。秋元は神崎から秘密を暴露されるし、目の前の二人はいちゃいちゃしている中、一人どうしたら良いかわからない状況を、俳優の金子岳憲さんがリアルに演じていて良かった。

 最初の10分で、やはり惹きこまれた。城山羊の会に出てくる登場人物は、いつも魅力的な俳優たちが演じている。そういうことも惹きこまれる理由のひとつだ。

 私は、社内恋愛と聞くと、秘密・三角関係・不倫・別れたりヨリを戻したり・同僚がライバルになったりと、どこか危なげでスリリングなイメージを抱いている。また、会社にはややこしい人間関係が付き物であるし、パワハラやセクハラで悩んでいるが、それを打ち明けられない社員も多いことだろう。もしそれが明るみに出てしまうと、会社を辞めざるを得ない状況に追い込まれてしまうのではないか、という不安を抱えることになる。それが辞めたくない、やりがいのある仕事であれば尚更のことだ。この冒頭のシーンで私は、舞台がオフィスであるという設定も相俟って、同僚たちの秘密を盗み見してしまったかのような気持ちになり、これからどうなっていくのか期待しながら作品に集中していく。

 続いて最近離婚した男・田ノ浦、この日総務から異動して来た若い男・佐々木が現れる。佐々木は以前総務にいた高橋と面識があり、高橋が不安になると佐々木が高橋の胸に手を当てて慰めるという変な関係のようだ。
 全員が出社すると、部長と小松課長が現れ、朝礼を始める。部長は眼鏡をかけ、きっちりと髪を後ろで束ねていて、何事にも動じない「デキる女性」といった感じだが敵が多そうだ。小松課長は、部長が醸し出すピリピリムードを和らげる為に、得意でもないのに場の空気を和ませようとして失敗するようなタイプだ。小松課長の登場は非常に好感が持てた。

 これで専務を除いた登場人物が揃った。この後、舞台「効率の優先」は部長が舵取りをしていくことになるが、間違った方向に角度を変えてしまうことになる。なぜなら、オフィスで殺人が起きてしまうからである。

 事の発端は、秋元が、小松課長に神崎へのセクハラを問い詰めるところから始まる。ところが神崎は、セクハラはされていないと前言をひるがえす。小松課長は上司に向かって何を言っているのだと秋元に対して怒りをあらわにする。そしてついには秋元と取っ組み合いの喧嘩になってしまう。そこに田ノ浦・佐々木・高橋・添島がその場を目撃し、驚いて全員で二人を止めに入る。オフィス大パニック。そこにタイミング悪く部長が専務を連れてやって来て、その騒然となっている現場を目撃することとなる…。

 部長と専務という強力な上司が登場したことにより、小松課長は自身の不利な状況を何とか逃れようとするが、正義感の強い添島が、小松課長が秋元に手を出していたことを全員の前ではっきりと言ったのである。小松課長が必死に隠そうとする中、興奮した添島は小松課長の非を激しく訴える。ついには体格の良い添島が暴れだしそうになるので、全員で必死に止めに入り、やっとのことで添島の動きがぴたっと止まる。一瞬の安堵、もつかの間、添島はその後も動かない。彼は死んでしまったのである。

 死人が出たことで、セクハラ問題は薄れていくが、犯人は誰なのかという新たな問題が生じる。結果、口と鼻の辺りを塞いでいた田ノ浦が犯人になってしまう。ここから田ノ浦という人物がクローズアップされていくのかと思いきや、新たな事実が発覚する。

 恋人の添島が死んで悲しんでいる高橋に対し、佐々木が嘘泣きだと罵ったことに秋元が切れたのである。実は秋元は最近結婚した男だが、結婚前から高橋に想いを寄せていたというのだ。高橋に二人で生きていこうとわけのわからない事を言い出す始末。佐々木と揉みあった末に佐々木の首を絞めて殺してしまうのである。

 私は最初、秋元を主軸に話が進んでいくと思っていた。だが秋元は殺人者になってしまう。二人の死体が出てしまい、この話はどういう展開になっていくのか、先が読めない。

 この時部長が下した判断は、警察を呼ぶでも、救急車を呼ぶでもなく、死体を気付かれないようB会議室に隠すということだった。部長は分担している仕事を一段落させてから、死体をどうするか考えようと全員に提案する。部長は、死人が出ているのにも関わらず、仕事の効率を優先したのである。

 この時私は、「あれ?」と思ってしまった。部長が下した判断は、現実では起こりえない。田ノ浦が添島を殺してしまったことは事故だったとしても、秋元が佐々木を殺してしまうことには違和感を覚えた。そもそも秋元は殺害にいたる程理性を欠いてしまう状況だったのか。リアリティに欠けたこの展開では、少し集中が途切れてしまった。この先どうやって話が展開していくのか。殺人が起きてしまったとなると、警察でもやって来るのだろうか。少なくともこの先の展開は限られたものになるであろう。おそらく観客の誰もがこの違和感を覚えたのではないか。観客全員の「あれ?」を作者はどうやって解消させてくれるのだろうか。

 こうして仕事を優先させる方向に話が進んでいくが、私は何かとんでもない結末が待っている気がして、怖くなった。今思えば一番真っ当だったのは死んでしまった添島なのではないかと思ってしまう。その添島が死んでしまっては、この会社は崩壊してしまう。
 しかしそこはフィクションの世界。添島が息を吹き返さないか、期待していた。だが息を吹き返すことはない。そういうところはリアルに描かれている。そんな時、神崎が救急車を呼ぶことを提案する。やっとまともな人間がいたと思った。しかし神崎は嫌いな部長から、小松課長が妻との間に第二子をつくることを知らされる。部長は、神崎が小松課長と不倫関係にあることを知っていたのである。神崎は錯乱し、死体が会議室に隠されていることを専務に話してしまう。会議室に向かった専務は、二体の死体が並んでいるのを目の当たりにしてしまった。

 私は最後の望みを専務に託した。専務がちゃんと警察を呼んで、大人の対応をしてくれると思っていた。しかし戻ってきた専務の判断に私は驚いた。田ノ浦に死体を保存する為のドライアイスを大量に購入してくるように頼んだのだ。専務もまた、効率を優先してしまった。さすが、この専務ありきの部長だなと思い、私はがっかりした。

 さて、舞台はいつの間にかクライマックスに突入していた。社員がそれぞれの仕事の為いなくなった後、部長と専務のみが残ったオフィスで、二人はなんとSEXをするのだ。部長と専務は不倫関係にあったのである。一体なぜSEXを? 私はこの光景に驚嘆した。社内での人間関係の縺れ、不倫、殺人と来て、最後は性交で終わるのか? わけがわからない。社内の不倫・恋愛・人間関係を展開させていった方が、もっと話が広がった可能性があったのではないか。このクライマックスは逃げなのか計算なのか。でもここまで来るとスカっとした。

 このクライマックスで、何事にも動じないはずの、常に冷静沈着な部長が初めて乱れる。部長は、激しく専務を求める。専務はホテルに行こうと言うが、それでは効率が悪い。今しなければならない、今しなければ、私はこの状況を突破することはできないのだ。だから私はSEXをするのだ。という部長の喘ぎが劇場全体に響き渡る。そこへ電話が鳴り、小松課長が入ってくる。部長は、なんと小松課長に電話に出るように指示をしたのである。部長は、淫らな姿で効率を優先させるのであった。

 ところで、あのシーンで二人の死に意味はあったのだろうか。話は戻るが、パンフレット記載の内容にも、意味はあったのだろうか。
 登場人物たちは終盤に近づくに連れ錯乱していった。観ていた私までもが、錯乱した。最後のSEXシーンは特に脳裏に焼きついている。それぐらい強烈だったからだ。

 終わってから劇場を後にし、数日経ってから、こう思う。
 もしかしたら私が、「あれ」と思ったその時こそ、『リアルな日常』を、舞台『効率の優先』が追い抜いた瞬間だったのではないか。それが城山羊の会の面白いところであって、個性なのだ。リアルを追求することはいくらでもできるであろう。だが、最後の展開は、おそらく誰もが想像できなかった結末なのではないか。
 きっと、私がパンフレットを読んだその時から、作者である山内けんじさんの策略にまんまと填まってしまったのだ。そうか、これが城山羊の会流『効率の優先』ってことなんだ。
(2013年6月13日19:30の回 観劇)

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